銀杏ララバイ


そんなにすぐに諦めの言葉を出すような孝史ではないはずだったが、

ギナマの存在さえもが疑わしく感じられているようだ。




「私はいたと思う。
だって二人一緒に同じ夢を見る事などないわよ。

私たち、家を出てからすぐに鎌倉へ来て、
それでギナマと出会い、
そのまま彼の家で泊めてもらったのよ。

だから一度も野宿をしていない。
でも家を出てから確かに十日経っているのよ。

この事実をどう考えたらいいの。
その間、孝史はどこに居たと言うの。

ギナマが誘ってくれた彼の家。
そうでしょ。

昨日の夜から今朝に掛けては
確かに不思議だけど、

ううん、おかしな事は沢山あったけど、
私たちには何も危害は無かった。

それどころか楽しかったぐらいだわ。

ギナマも何度も楽しい、と言っていたわ。
それは事実よ。

今どうなっているかは分からないけど、

私たちがこうして江の島に来たのは
ギナマの意思だと感じる。

いきなり父さんの事を言い出したのは彼よ。」



と、かおるは諦め顔の孝史を励ますように、

もっともな事を話している。

確かに、こんな小さい島だから
写真があればすぐに分かると思ったが… 



「ねえ孝史,私たちには時間はたっぷりあるのだからゆっくり捜そうよ。

後で上へ行って見ようか。

展望灯台があるらしいよ。
これには富士山も見えるように書いてある。

それに今の内に、
今晩のためにどこか眠れる所も捜しておいた方が良い。

今日は野宿をするようになると思わないとね。」



今晩どころか、
こうして2人でいる間は野宿するしか方法の無い。

お金はあるのに… 
仕方が無かった。



「そうだね。
陽のある内に夕食分を買っておかないといけない。」



孝史も気を取り戻したように、
自分の考えを言いながら弁当の残りを食べている。