「孝史、そんなボールでは駄目よ。
台所にホースがあったから、
それを蛇口につないで放水しましょう。
思いっきりすれば驚くかも知れないわ。
この家には大勢の人がいるのだぞ、って
知らせてやりましょ。」
負けてはいないが、
多勢に無勢のギナマを見ている内に、
かおるが声を出している。
心配は要らない、などと言っていたが、
黙ってなどいられない。
いくら強くても、
ギナマは生まれつき虚弱体質とか言っていた。
途中で息切れがしてしまうかも知れない。
いや、疲れが激しくなり、
動けなくなるかも知れない。
鶴岡八幡宮の石段で会った時も
かなり疲労感を出していた。
すぐああ言う事になるのだろう。
今でこそ華麗に舞っているような動きをして、
敵を翻弄しているが、
そんな良い状態はいつまで続くか分からない。
今、彼を助けられるのは私たちだけだ、
とかおるも思っていた。
「お姉ちゃん、持って来たよ。
夜は冷えるから
いくら霊魂でも水を掛けられれば寒いと思う。」
「で、しょう。
なるべくギナマの背後に居る影を狙うのよ。
後ろが危ないからね。
私が蛇口を開くから
孝史はそこのガラス戸をちょっとだけ開けて狙うのよ。
行くわよ。」
と、二人は協力して、
ギナマの背後に居る影を、
ホースから勢いよく飛び出した水道水で狙い打ちした。
思ったとおり、
水の当たった影は驚いたように跳ね返り、
その内に消えてしまった。
が、ホース水の届くのには限りがあった。
一点で戦っていてくれれば良いと思うものの、
ギナマは舞う様に飛びながら侵入者を追いかけている。

