外灯の無い場所、
月明かりだけが頼りの場所では、
いきなり言われてもすぐには分からなかったかおるだ。
「えっ、どこ。」
「階段の途中だよ。
銀杏の木のそば。」
言われて見れば、
確かに石段の途中に誰かが倒れているようにうつむいている。
こんなに冷えて来ていると言うのに石段で…
やっぱり普通ではない、
と思ったかおるは孝史と一緒に恐るおそる近づいてみた。
倒れていたのは中学生ぐらいの少年だった。
顔ははっきりしなかったが
薄暗い月明かりでも色白だと言う事は分かった。
そしてその少年は
何故そんなところにいたのか分からないが、
意識を失って倒れていると言うより
眠っているように思えた。
それでかおるが
肩の辺りを揺さぶりながら少年に声を掛けている。
「大丈夫ですか。どうしたのです。
こんな所で眠っては風邪を引きますよ。
起き上がれますか。」
かおるは思いつく言葉を順番に声にして、
少年に話しかけている。
学校は共学だがボーイフレンドも無く、
下校後は少しでも母の負担を軽減しようと、
出きる手伝いは何でもしていた。
必要以外は異性と話す経験も無く来てしまっていたかおるだったが、
本当は友達のように、
好きな男子を作って笑って話したり、
休日にはどこかへ出かけたりしたかった。
こうして異性の体に触れるのも、
弟の孝史以外では経験が無いかおるだった。
だからどこか戸惑いの気持ちもあった。

