銀杏ララバイ


「何も無い。
お姉ちゃん、夢でも見たんじゃあない。

重たいならこうして足跡が付くはずだよ。
僕がちょっと引きずっても
こうして跡が残るでしょ。

ほら、お姉ちゃんだって。」



想像していたような足跡は庭のどこにも無かった。

孝史が実践のように重い足取りを真似て歩いてみたが、
子供の孝史でもすぐに足跡は出来る。

それなのに無いと言う事は… 



「そうだけど… おかしいわ。
雨戸を閉めていても重そうな足音が聞こえたのよ。」



と言う事で、今晩は雨戸を
わざと少しだけ開けておこうと言う事にした。

音がしたら、そこから覗けば分かると言うものだ。

カーテンは分厚いし、
廊下の明かりは薄暗いから
光が漏れる事も無い。


それから二人は昼まで読書をする事にした。

そう、二人とも偶然のようだが、
書庫から鎌倉にまつわる歴史の本を数冊持って来ていたのだ。

大人なら一般常識として、

鎌倉の鶴岡八幡宮や
武家として初めての征夷大将軍・源頼朝、
弟の義経の話は有名だから知っているだろう。

もう少し詳しい人なら、
頼朝の妻は北条政子、
子供は二代将軍の頼家と三代将軍の実朝。

しかし頼朝亡き後、
二人の子供は若くして将軍職についても、

母である政子の一族に実権を奪われ、
原因は異なるが死に至っている。

実朝は、源氏の正統は自分で絶える。
せめて高官にのぼり家名を上げておきたい、と言い、

政治よりも京都の貴族文化に憧れ、
公卿の娘を妻にし、

あたかも後鳥羽上皇の近臣の一人のように振舞ったらしい。

歌を藤原定家に習い、
金塊和歌集と言うのが残っているぐらい京都好みだった。