銀杏ララバイ


ギナマの言っている事は全て本心だろう。

第一こんな広い家で一人とは… 

かおるはそのギナマの表情に
心が痛くなるほどだった。

とにかくかおるにしてみても、
こんな好都合な話は無かった。


頼りにしていた母が亡くなり住む所も無く、
施設から逃げ出したこの行動。

実際はまだ子供の2人、
多少の金はあっても宿には泊まれず、

野宿のような日々を送らなくてはならないのが現実だった。

助けたお礼に夕食はご馳走になった。

それ以上は… と
常識的な言葉を出してみたのだが、

かおるにとってもギナマの反応は、
内心すごく嬉しかった。



「決めてくれて嬉しい。
どの部屋を使っても良いよ。」



厚かましい行為だと思いながらも、
やはり野宿は心細い。

孝史がいれば何となく気が楽になったが、
それでもまだ小学生、

やはりきちんとした家で眠りたかったかおるだ。


それに、ギナマの言葉を全て信じるものではないが、

自分たちを待っていた、
と話した時のギナマの顔は、
嘘偽りを言っているとは思えなかった。

あれはほんの数十分の短い交わりだったが、
何故か、かおるたちも
幸せな時間を共有したように覚えていた。

ギナマの話した5年前の思い出話には、
切ないような愛が感じられた。

第一、言葉に言い表せないほど
幸せそうな顔をして話していた。

あの心だけは信じられた。

そんなギナマの好意だ。

彼を信じて数日ここに泊めて貰おう、
と決心して、
二人は部屋を物色したが、

驚いた事に、どの部屋の近くにも
風呂や洗面、トイレが作られていた。

それで2人は、
はっきりとは分からなかったが、
なるべくギナマの部屋に近いところに決めた。