いや、この子は自分たち皆の子供、と言う考えが強かった。
「赤ちゃんって小さくて可愛い。
僕、大切にします。」
鳶人も身を乗り出すように覗き込み、
まだ目などは見え無いと言うのに愛嬌を振りまいている。
そんな2人を見てかおるは満足そうな笑みを浮かべた。
それから5日後、
退院したかおるは、赤ん坊に授乳しながら、
新館の建築現場を監督し、
しょっちゅうかおるのところに来ている孝史と
自分の仕事以外はかおるの側にいる鳶人を前にして
赤ん坊の名前を発表した。
「この子の名前はギナマにします。」
「えっ、どこかで聞いた名前だ。
懐かしい気持ち… 僕は気に入ったよ。
鳶人はどうだ。」
何故か、その頃の孝史には、
あれほど仲が良かったと言うのにギナマの記憶はほとんど消えていた。
15年前、
2人がこの江の島で父と一緒にいた鳶人を見て以来、
孝史の脳裏はギナマより鳶人が占めるようになっていた。
そう、孝史の中ではギナマと鳶人は融合して、
今は鳶人だけになっていたのだ。
「うん、ちょっと変わっているけど…
この子に似合いそう。」
鳶人はいつもの涼しげな瞳でギナマを見ながら、
かおるを見ている。
19年前、
鳶人が父と共にここに来た、赤ん坊だった頃を知っている人が見れば、
それはまさに同一の赤ん坊だ、と思うだろうが、
幸か不幸か、
そんな事を知っている人は誰もいない。
かおるはどう思っているのだろうか。
口には出さないが、
満足気に微笑んで二人を見ている顔は、幸せそのものだ。
ギナマ、とは銀杏丸が勝手につけた名前、
かおるはそのことを覚えているのだろうか。

