銀杏ララバイ

「孝史、何も気にしないで勉強を続けて建築家の道を進みなさい。

その代わり、孝史の一番初めの仕事は、
この宿をもっと大きいものにする事よ。

今はいくら頑張っても一日4組のお客しか受けられないけど、

孝史が一人前になる頃には建て増し出来るぐらいのお金を稼いでおく。

出来れば隣の雑木林の一部を買い取って
そこに新しい宿を建てたいと思っているの。

ねえ、鳶人も同じ考えでしょう。」



かおるは孝史の気持ちが嫌と言うほど分かり、

一生懸命励ましている。


初め、孝史が東京へ行き、
戻ってくるのは月に一度ぐらい、と聞いた時の鳶人は、

そのまま消えてしまうのでは、
と思うほど傷心の気持ちを体中で表していた。

しかしかおるに諭されて… 
今は孝史のために応援している。

その頃から鳶人は父について海に出ていた。


幼い頃はいつも父と一緒だったが、

孝史と同じ部屋で眠るようになってからは、
孝史と行動を同じにしていた。

そして、孝史が東京へ出ると、
また鳶人は父と行動を共にした。

鳶の銀杏丸の功績が大きいのだろうが、

今では鳶人は父以上に魚釣りがうまくなっていた。

そう、鳶の寿命がどのぐらいかは知らないが、

あの銀杏丸は今も健在で、
相変わらず鳶人の周りにいる。



「はい。僕はお姉ちゃんの意見に賛成です。

僕は父さんの代わりに魚を沢山釣って、
お客さんに喜んでもらって、

玄関の掃除や店番だって、大丈夫です。」



14歳になっている鳶人、
痩せているがスマートな少年に成長して、

その言葉も歳相応に逞しくなっている。



「そうよ、孝史。ここは何も心配は要らない。

明日からは朝と夕方、食事時だけは宮元さんの娘さんが、

働きたい、と言ってくれているから、お願いする事に決めているの。

鳶人は漁が上手だから魚を買う必要が無い。

だから貯金が出来るの。

宮元さんにお手当てを払っても大したことは無いの。

だから建て増しの気持ちは本心よ。

孝史もしっかりした仕事が出来る建築家になってよね。
ねえ、鳶人。」


「はい。お兄ちゃん、頑張ってね。」