銀杏ララバイ


イチョウ屋にとってはかなり痛手だったが、
それでもかおるが既に高校を卒業して宿を手伝っていた。

そして、登校していない11歳の鳶人も、

出来る事は手伝っていたから宿の運営は何とか動いていた。


しかし、何故か父は、
初めから決まっていた仕事には精を出しても、

その他の事には気が回らないようだった。

そんな父を見て、かおるは時々不審感を持ったが、

何も言わずにするべき事をしていた。


孝史は父の弓装束に心が奪われているらしく、

中学生の内は、密かに練習に励み、

高校生になってからは、
父の代わりに祭りに参加して、

その凛々しい若武者姿に、
観光客から脚光を浴びている。

一夜だけの簡単な祭りだが、評判は上々だ。




「孝史、父さんが死んでしまったけど心配は要らないからね。

私が鳶人と一緒にここを守るから、

孝史はそのまま大学で勉強を続けなさい。

鳶人、大丈夫だよね。」


「はい。僕はお姉ちゃんと一緒にここで暮らす。

お兄ちゃんは東京で勉強をして、
立派な建築士になってくれたら嬉しい。

だけど時々は戻って来てね。」



それから数年後、
今度は父が心臓発作を起こして急死してしまった。

享年57歳、
死ぬには早過ぎる年齢だが… 

その時、かおるは26歳、
孝史は東京の大学で建築学を学ぶ21歳、

鳶人は14歳だった。



「うん、だけどそれで本当に良いのかなあ。

宿が人手不足と言う事は分かっているのに… 」



孝史は高3の受験期に、
将来は建築家になっていろいろな建物を手がけたい、

と自分の夢を家族の前で話し、
希望通りの大学に入った。

その気持ちを一番後押ししているのはかおるだ。

だから父が死んだぐらいで、

孝史の夢を小さいものにはしたくなかった。