銀杏ララバイ


「それでも実鳶として一人の女性を愛しましたが、

母上の存在で彼女は自害しました。

予感はしていましたが私には止められなかった。

勿論私の力を持ってすれば彼女を生き返らす事も出来ましたが、

その力を銀杏丸に注いだのです。

だからあの子は強い。
しかしあの子の求める愛情を注ぐ事は出来なかった。

何故ならば、私自身が分からなかったからです。

今もこうして眺める事は出来ても、
直接は何も出来ない。」


「それでも自分の息子が現世にいると言う事は誉れだな。」


「そうです。
あの二人との出会いが銀杏丸を生き返らせた。

二人からの大きな愛があの子を輝かせている。」


「しかし、ボツボツだな。」


「そうです。
私の力も底を付いてきました。

数日後にはあの女が、数年後には… 」


「仕方がないのう。」


「まあ、あのかおるがいますから何とかするでしょう。
彼女は強い。

それに、彼女はあの銀杏の館のようなイチョウ屋をこよなく愛しています。

多分、潜在意識の中で、
銀杏、イコール、ギナマ、
それが自分の居場所、と考えているようですから、大丈夫でしょう。」



と2羽の鳶たちが話してから数日後、

宿の多恵さんが、
江の島大橋を渡って帰宅中に、
覚せい剤の常習者が運転する車にはねられ、

救急車で病院へ搬送される途中で息が止まってしまった。


こんな静かな観光地にあんな危険運転を許している、

警察は何をしているのだ、
と新聞やテレビニュースで連日報道されていたが、

その内には忘れられてしまった。