銀杏ララバイ


鳶人はかおるを、
憧れの人を見るような瞳で見つめている。


高校生のかおるは、
それまで納戸として使っていた部屋を整理して自分の部屋としていた。

それまで孝史と使っていた部屋は、

今では孝史と鳶人の部屋になっている。

しかしかおるは、
勉強はほとんど留守番を兼ねて玄関でしている。

客が夜遅くに何か尋ねる事があっても、

疲れて眠っている父を起こさずに
自分が対応しようと言う気持ちからだ。


そして、その夜も皆が寝静まってからも
玄関で勉強をしていた。


かおるは高校を卒業したら宿の仕事に専念するつもりだ。

だけど今はせっかく高校へ通える身分、

なるべく頑張ってよい成績を残したいと考えていた。

まだ2年生だが将来の考えは決めていた。


何故か分からないが、
住むほどに、
この江の島の宿がとても気に入っていたのだ。

多恵さんもその内には今のような仕事は出来なくなる。

父は益々忙しくなり… 

体調を壊されたら大変だ、と思うこともある。


そんな事を考えながら、
今日の復習として
地理の教科書を見ていると珍しく眠くなってきた。




「かおる、かおる… 」



どこかで誰かが自分の名前を呼んでいる。

ぼんやりとそんな事を考えていると玄関に人影が… 



「ギナマ、あなた、ギナマなの。」