銀杏ララバイ


「ああ、毎年十一月の初めにある。」


「観光客を呼ぶためなら、
その日、父さんの宿はどうなるの。

父さんがいないと営業出来ないじゃあない。

あの宿にはお客さんが来ないの。」



別に意地悪のような言葉を出すわけではなかったが、

かおるは現実的な考えを口にした。

実際はどうでも良い事だったが… 



「組合から手伝いの人を遣してくれるから何とかなっているよ。

女将さんは祭りの日まで働かなくても良い、休みにしよう、と言っていたが、

いくら客の少ない宿でも稼ぎ時だから、な。」



父はかおるの言葉に丁寧に応えている。



「父さんは優勝したことあるの。」


「いや、父さんはまだ初心者だから、やっと的に当たるぐらいだよ。

さあ、帰ろうか。
銀杏丸の手当てをしてやりたい。

孝史、鳶人を頼むな。」



そう言いながら父は持っていた弓矢をかおるに預け、

自分は波打ち際に横たわっている鳶の銀杏丸を抱え、

波打ち際を歩き出した。


そしてちょうどイチョウ屋の真下辺りに来ると、

道など見えないのに、
横に逸れて細い倒木や流れ着いたような流木で覆われているベニヤ板のようなものを取り除いた。




「あれ、うちの船だ。」



孝史が大発見でもしたような声を出した。



「と言う事は… この辺りにあの階段があるの。

僕、あの時は父さんの後を付いていただけだからよく覚えていないや。

滑らないように気をつけて歩いていたから気が付かなかった。」



孝史はここに来た翌日の早朝、
父に声を掛けられて船で釣りをした。