銀杏ララバイ


「父さん、すごいなあ。
それって弓矢でしょ。

父さんがそんなものを持っていて、
あんなに上手だったとは… 

僕、感激だよ。お姉ちゃんもそうでしょう。」


「そうね、父さんって昔の武士みたい。」



かおるは初めに浮かんだ言葉を孝史に応じて口にした。

が、孝史のように万弁の笑みを浮かべて父を見ていると言うわけにはいかなかった。

多分そんな心は顔にも出ていたようだ。

父は興奮している孝史より、
冷静なかおるに説明するような口ぶりだ。



「そうか、これはこの辺の祭りで… 
参加者が足りないから父さんも借り出されるようになり、

何となく弓矢が出来るようになったんだよ。

ほら、鎌倉の鶴岡八幡宮では今も昔さながらに流鏑馬と言う行事があるだろ。

この島も秋祭りは… 
馬は使わないけど、
昔の装束を着て遠くから的に当てると言う行事があるのだよ。

何でもここはその昔、海賊の隠れ場所だったり、落人の隠れ里だったり、

江戸末期などは
黒舟に対抗するために多くの武士がここに立て篭もり反旗を翻したらしい。

昔は今のような橋も無かったから皆船だけを頼りに行き来したんだよ。

だから密かに暮らすには絶好の場所だったらしい。

それで現代はそれらを偲んで、
祭りで気鋭を上げているんじゃあないかなあ。

あまり有名ではないけど観光客への客寄せにもなる。」


「ふーん。それって今年もあるの。」



父はかおるに向かって説明のように話していたが、

感動の気持ちを膨らませている孝史が興奮した声を出している。

やはり男の子は父の強さに憧れるものだろう。