銀杏ララバイ


それはちょうど観光客などが足を運ばないような、
大きな岩が目立つ海辺で、

位置的にはイチョウ屋から直接下りたところだ。

実際には複雑に入り込んでいるから、
直下は無理だが、
位置としてはそうなる。


江の島は静かな波が多いのだが、
そこだけは岩にしぶきがあたり、

静かなイメージとはかけ離れている。


父が使う釣り船はあの近くに泊めてあるのだろうか。

そうか、二人は船のところへ行こうとしていたのか。

しかし孝史がいてそんな事をするだろうか。

かおるはそんな事を考えながら、
鳶が騒いでいる方角を目指して進んでいる。

鳶が喧嘩でもしているのか。


おや、銀杏丸… 銀杏丸が大きな鳥と… 


銀杏丸も他の鳶より大きいが、
もっと大きな鳥、

あれは鷲では… 鷲がこんな所にいるものか。

そんなはずはない。

しかしそれは確かに鷲のようだった。

暗褐色の鳶に比べて茶色っぽい毛色、

鳶よりもはるかに頑丈そうな体格に、
鋭く曲がったくちばし。

鳥類の王に相応しい風采をしている。

鷲がこんな所に登場しているから鳶たちが興奮して騒いでいる、

というのなら分かるが、
何故か銀杏丸と鷲が戦っている。


カモメやカラスたちとも共存している鳶が、
なぜ鷲と戦うのだろう、と思いながらかおるは気づいた。


銀杏丸は孝史と鳶人を守るために闘っているのだ。

そうだ、二人はどこだろう。

かおるは足場の悪い岩が連なっている所を、

目に付いた石を数個拾ってポケットに入れながら近づいている。

微力ながらいざとなれば石を投げて… と思っている。



「孝史、鳶人、いるの。
いるなら返事をしなさい。」



かおるは波の音にかき消されないように大きな声で、

二人の名前を呼んでいる。