普通の状態の父ならばすぐにでも聞くところだが、
記憶が無い父にこんな悲惨な事件を聞かせたくは無い。
かおるは新聞を元に戻して知らぬ顔をしていた。
横浜へ行って数日経つと言うのに、
誰からも何も言って来ない。
父のことは取り越し苦労だったようだ。
午前中には、新しい高校から、
新学期から登校するようにと連絡が入っている。
その内に詳しい連絡が入る予定だ。
孝史が通う小学校からも同じような連絡が来ている。
「イチョウ屋さん、大変だ。
子供が狙われているぞ。」
かおるが、のどかな昼下がりを過ごそうと思っていた時だった。
シーツや浴衣の洗濯を頼んでいるクリーニング屋が、
大声で叫びながら駆け込んで来た。
狙われているって、
まさか孝史と鳶人が…
かおるは急いで父を呼び、
自分はすぐに外へ駆け出した。
誰に狙われているのだろう。
こんな静かなところでそんな危険は無いはずだが…
かおるは訳がわからないまま走りながら考えている。
「孝史、鳶人。」
2人の名前を呼びながら走っているかおる。
しかし江の島大橋の周辺は、
人こそ多いが何事も無かった。
どこかへ逃げているのか。
そう思ったかおるは冷静に辺りを見渡してみた。
普段と異なる光景はどこにも無い。
あ、あった。
あそこだけ鳶がやたらと騒いでいる。
あの辺りに孝史たちがいるのだろうか。

