銀杏ララバイ


初めての外出で喜んでいる鳶人、

かなり興奮してよく分からない例の言葉で、
一生懸命父に話しかけている。

ずっと孝史と一緒だったから、
その事も嬉しかったようだ。

そしてやはり5年ぶりだったのだろう、

父も顔をほころばせて、
嬉しそうな表情で鳶人の食べるのを手伝いながら相手をしている。



「うん、気のせいかも知れないけど… 

どうも誰かに見られているような気持ちなのよ。

だけど見れば、誰もいない。

孝史も気をつけていてくれる。」



かおるはパスタを口に運びながら、
さりげなく孝史に自分の感じている事を話した。


気のせいで終わればそれに越した事はないが。


とにかくその時のかおるの脳裏をよぎるのは、

たとえ些細な事でも父の安全だった。


目の前でその父は、
まるで初めてのお出かけごっこをしているかのように、

鳶人が食べるのを手伝いながら、

そして時々かおるや孝史の顔を見て、
幸せそうな顔をしている。


昔、活発な孝史を自分の隣に座らせて、

食べるのを手伝いながら自分も食べていた父がそこにいた。

もっとも鳶人は孝史のように活発ではない。

その代わり放っておけば、
動作はゆっくりで、
ほとんどの物を下に落としてしまいそうだ。



予定していた事を全て片付け、
帰路に着くために横浜駅構内を歩いていた時だった。

通路に掛けられていたテレビが臨時ニュースとして、

新宿の楠木と言う金融会社が放火され、

今のところまだ燃えているから中の様子は分からない、と、

その火事の模様と解説が大きく字幕つきで流れていた。


金融会社が放火された… 

かおるは何気なくその画面も見たが、
所詮ただのニュースだった。