銀杏ララバイ


そして火曜日。

かおると孝史は、
記憶が無い上に横浜も初めて、
と言う父を案内する形で電車に乗った。

鳶人はほとんど孝史と手をつなぎ、

疲れたり、人ごみの多いところでは父に背負われている。


そして役所の担当者に話をした。

江の島に母と離婚をした父が居て、
これからはそこで暮らす事になったから戸籍や住所変更、

転校の手続きなどをお願いした。

肝心なところは父が真面目な顔をして声を出していたが、

ほとんどはかおるが説明した。

母の事も記憶が無いから、
はっきり話せない父よりも、
かおるの方が話がスムースに進んだのだ。


ただ、これからの父親としての自覚や決意は、

自分の言葉ではっきり伝えてくれた。


それから母の眠っている墓のある寺へ行った。

簡単に済ませた葬儀の後、
かおるはどうして良いか分からず、

すぐに祖母が入った墓に入れてしまった母の遺骨に手を合わせた。

孝史は声に出して墓の下で眠っている母に、

鳶人を弟として紹介した。

父は記憶がないと言うものの、
自分が離婚したから… 
と気持ちが整理できたらしく、

いつまでも墓の前で手を合わせていた。



しかしその頃になると、
かおるは誰かに見られているようなかなり鋭い視線を感じるようになっていた。

さりげなく辺りを見渡しても誰もいないのだが… 



「お姉ちゃん、どうかしたの。」



やはりそんなかおるの様子にすぐ気づくのは孝史だった。

墓参りも終わり、
少し遅い昼食のために入ったスパゲティの店で、

孝史がパスタを食べながら声を潜めて尋ねて来た。