第一、こうしてお互いに話をすれば、何となく記憶が甦ってくるが、
それも… 正直なところ、
ギナマに関しての記憶はかなり曖昧なものになっている。
「そうなのよね。
実は私も信じられないのだけど…
でもね、父さんが、たとえ他人の保証人になったとしても、
そのために母さんと離婚までしなくてはならなかったのは事実でしょ。
これは分かるわね。
返せる様な金額ではなかったから離婚して姿を消したのよ。」
曖昧な話はともかく、
かおるは現実的な話として、
孝史に父の借金について話をする事にした。
「うん。お姉ちゃんが、母さんからはっきり聞いたのでしょ。」
そう、孝史にとって、
両親が離婚したと言う事は大問題だったが、
その原因となった借金問題などは、
昨日初めて聞いた話であって、
それまでの孝史の知識としては培われて居なかった。
「そうだけど…
でもね、今思い出してみると、
離婚して横浜に移ってからも一年ぐらいは
変な男の人が私たちを見張っていた気がする。
父さん本人が借りたのではないにしても、
その借金はかなりの大金だったらしいから、
貸した会社としては放っておけないでしょ。
母さんもそう言っていた。
あれは借金取りが父さんの行方を捜していたのよ。
戸籍上は離婚しても
実際は一緒にいるか、
行方を知っていると思ったのよ。」
「そんな事は知らないよ。」
孝史には初めて聞く話だった。
誰もそんな事は話してくれなかった。
しかし、孝史の表情は次第に不安げになっている。
「だって孝史はまだ7歳だったのよ。
母さんが言うわけないでしょ。
あまりまとわり付くようなら警察に言おう、と思っていたけど、
諦めて見えなくなったからそのままだったの。
と言う事はね、
父さんは記憶が無いから気にしていないようだけど、
今度皆で横浜へ行こう、と言う事になったでしょ。
私たちの住所変更や転校手続き。
その時、父さんは大丈夫かなあ、と心配なの。」