『海亜……』

「あぁー!もう!焦れったいなぁ!早く行ってよぉ!何もたもたしてんのよ!矢耶の顔、見るんでしょ?」


海亜に背中を押され、やって来た車に乗り込む。


『翼、あとは頼む』

「あぁ、落ち着いたら俺らも向かうから。くれぐれも先走るなよ?」

『分かってる。そんなへま、もうしねぇよ』


窓が閉まり、車が発車する。


あぁ、ほんの数時間しか離れていないだけなのに、矢耶が恋しい。

今は、類さんの家に一刻も早く着くことが大事だな。


――――――……


「いやー、姉さんっ!カッコイイっす!男の鏡です!やべぇ!輝いてますよ〜」

「はいぃぃ?!男の鏡〜?私、女の子なんですけど!」


連絡係の一人がマジマジと海亜を見る。


「いや、もう、ヤバいっす!世間で言うツンデレってやつですね!カッコイイし、ちょっとデレがあるって…憧れるっすよ〜見習わなきゃなぁ」

「何それ!ぜんぜん嬉しくないし!ツンデレって、何かやだっ!」

「そーっすか?俺はツボだと思いますけどね〜案外可愛いとこあるんだ、なんて思いますよ〜」

「えぇっ?!ヤバいっ!いいやつ〜可愛いとか、やっぱ嬉しいわぁ」


連絡係の頭を撫でる海亜。

さっきまで襟を掴んで、揺らしていたのに…


「藍飛さんを睨んでた時は、俺が殺されるかと思いましたけど、姉さん、やっぱいい人っすね〜」

「ふふふ、もっと誉めて!」


誉められて嫌な気がしない海亜は更にご機嫌に。


「海亜…?」


そこに大魔王が君臨。


「ん?なに、翼」

「お楽しみのとこ悪いけど、そろそろ俺、怒るよ?」


天使の様な微笑みで、翼は海亜を見つめる。

眉がピクッと動き、少し負のオーラを発している。


「え、な、なに?何かした?」

「ツンデレな海亜ちゃん?矢耶を迎えに行く前にお仕置きが必要だね」

「へ?!な、んで?」

「あ、お前、海亜のこと誉めていい気になってんなよ?海亜は毎日、俺の頭撫でてくれるから」

「え、あ、はいっ。いや、俺はそんな気ないっすよ!まさか!翼さんの足元にも及ばないです!はい!」


連絡係の頭にのっていた海亜の手をのけて、そんなことを放つ翼。

連絡係はさぞ驚いただろう。


「むしろ、翼さんが頭を撫でられている情報なんていらないっす!もう、勘弁してください!早く矢耶ちゃんとこ行ってあげて下さい!」


逃げる様に連絡係は後ろに下がった。