(さくら)「何がやっぱりなんですか!?」
(お婆ちゃん)「私達の神社は右側… 雄の方が子持ちよ」
(勇次)「う、嘘じゃないよな?」
(さくら)「嘘じゃないもん!! だって……ほら!!」
さくらは鞄から狐のストラップを急いでとりだした。
さくらのストラップには左足元に子狐がいる。
(勇次)「……」
勇次は売店から、さくらのストラップと瓜二つの物を持ってきた。
しかし、さくらのストラップとは違い、それは右足元に子狐がいるストラップだった。
(勇次)「…え~と、これ作ってるメーカーって、こうゆうタイプもある…?」
勇次はさくらのストラップを指差してお婆ちゃんに聞くのだが、
(お婆ちゃん)「そんなわけないでしょ、「お稲荷さんの雄の右足元には子狐がいる」のは全国どこ行っても同じなんだから」
つまり、勇次の住むこの世界にさくらが持っているようなストラップは存在しないのだ。
ましてや、機械生産されているような形の決められたストラップに、こんな生産ミスがあるわけがない、
(勇次)「マジかよ…」
(さくら)「……これからどうすればいいの… 寝る所とか食べるものとか…」
(お婆ちゃん)「何言ってるの? ウチに住みなさいな」
お婆ちゃんはまるで当たり前のように平然と言うのだ。
これには、さすがのさくらと勇次も驚きを隠せなかった。
(さくら)「……え?」
(勇次)「……ばーちゃんマジ?」
(お婆ちゃん)「ここで会ったのも何かの縁、遠慮することないわ」
(勇次)「オイオイ…ちょっと待て、 コイツはなぁ、俺に助けられてお礼ひと!!!!」
さくらは、余計な事を言おうとしている勇次の足を、茶ぶ台の下から思いっきりつねった。
(勇次)「!!……!…いっつぅ…」
(さくら)「お婆ちゃん、ありがとうございます… だけど私は…」
だけど、どうするのか、
住むところを失ったさくらにはどうすることも出来ない、
(お婆ちゃん)「遠慮しなくていいのよ?」
(さくら)「でも…」
遠慮はしていても、さくらにとってこれ程ありがたい言葉はないのだろう。
その言葉に甘える以外の方法なかった。
(お婆ちゃん)「いいんだよ、困ったときはお互い様。 じゃあ勇次」
(勇次)「あ!?」
(お婆ちゃん)「さくらちゃんを家に送りなさい」
(勇次)「くっ…しょうがねぇ… おい行くぞ」
勇次は立ちあがり、そそくさと売店から出始める。
(さくら)「え? ちょっ、まちなさいよー!!」
さくらは勇次の後を追いながらも、売店を出る時にお婆ちゃんにお辞儀をした。
心のそこから感謝を込めて、精一杯のお辞儀を、
そして勇次の後を追うべく、走り出したのだった。
(お婆ちゃん)「ふふ… いってらっしゃい~」
外は日が暮れてすっかり暗くなってしまった。
勇次とさくらは電柱の街灯をたよりに、歩道を縦に並んで歩いていく。
