首筋に生ぬるい風がかかる。

底のない暗闇から、なんとなく意識が覚醒していく。

 カーテンは、閉め忘れたんだろうか。
夜風に揺れるカーテンは、決して強すぎない月明かりを時々ちらつかせて部屋を照らしていた。

 この肌を包む布の手触りは、よく知っている。
そこは何年も使い慣れた自分の部屋。自分1人だけ寝るだけの広い部屋に、いつも申し訳なく感じていた。


 ――でも、どうしてここにいるんだろう。

 確かに私はさっきまで……。


「んっ」


 その時、生暖かい風の存在に気付いた。
首筋にかかる風に、ぞくぞくと体に変な感覚が走り、口から声が漏れる。

 そして次の瞬間、首筋に触れた固く鋭い感触に私は体を飛び上がらせた。


「なん、で」


 手で首筋を押えながら、私は目の前に映る人物を信じられなかった。

私のよく知った赤い髪。目、鼻、口とバランスよく配置されている顔。

 私を育ててくれた彼に違いはないはずなのに、違う。


 そこにあったのは、黒かったはずの瞳の色を赤に変え、口から鋭く光る牙をのぞかせている私の知らない彼の姿。