「何かしら? 酒井くん?」
「神様仏様智絵理様、それ以上はもうヤメテ……」
毒舌で腹黒いと定評の智恵理に酒井はめっきし弱い。
「智恵理」
「なぁに?」
「すっごい楽しそうだよ」
「あら、そうかしら?」
本人は無意識なのか無意識じゃないのか。
どちらにしても、智絵理を絶対に敵に回してはいけないと思った。
「おい!! きたぞ!」
クラスの男子の興奮した声に、私たちの会話は遮られた。
もうこのクラスの男子の日課になってしまった日がまたやってきたのだと気が付いた。
その時、この場の空気が一気に変わる。
教室の前を、艶のある金色の巻かれた長い髪がなびく。
スラっと伸ばされた姿勢のいい背筋と手足に、透き通るような白い肌、綺麗な青い目、ほどよく色づいた唇に全てが整いすぎている。
それは本当に少しの時間の、幻のような瞬間。
今では慣れてしまったものの、気を抜けば誰もが息を飲んでしまうだろう。
「……っはぁ~。やべ~」
「女神だろ、マジで」
空気が和らいですぐ、騒いでいたクラスメイトの声で現実に戻る。
「女神様の人気、毎度すさまじいわね」
彼女が通り過ぎた後の廊下を見つめたまま、智絵理が呆れたように言う。

