「私の弟、三木三郎が失礼な振る舞いをして申し訳ない。兄の私に免じて許してやってください」
隊列を器用にすり抜けながら楓と沖田の前に立ったのは、注目の的である伊東だった。
「兄上…」
伊東を兄上と呼ぶのは、騒動の中心人物である男、伊東甲子太郎の実弟・三木三郎。
「いえ、こちらこそ監督がなっておらず、三木さんに不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。私はこの者の上官、新撰組一番隊組長の沖田総司と申します」
いつもの傍若無人な態度からはまるで想像つかないほど丁寧な口調で沖田は伊東に頭を下げる。
「上官…ということは、彼女は一番隊の隊士なのかね?」
「はい。歴とした」
伊東は沖田と会話しつつも、沖田の隣に立つ楓から目線をはずさなかった。
「一番隊というのは、新撰組の中でも最前線で刀を振るうという話を聞いるのですが、まさか彼女も?」
「ええ」
伊東の視線を遮るように沖田は半歩楓に近づく。
伊東は神経質そうな手つきで顎を数度撫でると、自分の肩ほどしか身長がない楓を見下ろした。
楓は自分がなにか言えばまた波を起こしてしまうと思い、無言のまま伊東を睨み付けていた。

