「…んなアホな……」
沖田と山野が屯所に向かっている頃、八木邸では暑苦しい男たちが一点を食い入るように見ていた。
新撰組で紅一点の赤城楓もその一人であった。
「よっしゃー!俺また十番隊だ!」
「俺は九番隊に移動だな」
「わ…わいが伍長!?」
様々な声が屯所内を飛び交う。
皆が一喜一憂する訳、それは広間に張り出された隊編成の半紙のせいだった。
――局長 近藤勇
総長 山南敬助
副長 土方歳三
お世辞にもうまいとは言えない文字で書かれた隊編成の通知は、新撰組の柱である三名の名前から始まっていた。その後には、各隊の組長名、組長の補佐となる伍長、隊士の順に名が書かれている。
楓は平隊士であるから、当然、最初の方の文字には目もくれない。ずらりと並ぶ文字の中で、やっと現在所属している二番隊の欄を見つけた。
「…あれ?お前の名前なくねーか?」
現上司である二番隊組長の永倉新八が、楓の隣に立って茶化すように笑う。
永倉が言うように、確かに楓の名前が二番隊の欄のどこを探してもないのだ。
「…いや、あんねん。名前は…」
病人の様に顔を蒼白にした楓がぽそりと呟いた。
「あ?どこに?」
永倉の問いに楓はゆるゆると力なく右手を上げる。
彼女が指差した先を永倉の目が追っていく。

