幕末異聞ー参ー



「…んなアホな……」


沖田と山野が屯所に向かっている頃、八木邸では暑苦しい男たちが一点を食い入るように見ていた。
新撰組で紅一点の赤城楓もその一人であった。

「よっしゃー!俺また十番隊だ!」

「俺は九番隊に移動だな」

「わ…わいが伍長!?」

様々な声が屯所内を飛び交う。
皆が一喜一憂する訳、それは広間に張り出された隊編成の半紙のせいだった。

――局長 近藤勇
  総長 山南敬助
  副長 土方歳三


お世辞にもうまいとは言えない文字で書かれた隊編成の通知は、新撰組の柱である三名の名前から始まっていた。その後には、各隊の組長名、組長の補佐となる伍長、隊士の順に名が書かれている。


楓は平隊士であるから、当然、最初の方の文字には目もくれない。ずらりと並ぶ文字の中で、やっと現在所属している二番隊の欄を見つけた。


「…あれ?お前の名前なくねーか?」

現上司である二番隊組長の永倉新八が、楓の隣に立って茶化すように笑う。
永倉が言うように、確かに楓の名前が二番隊の欄のどこを探してもないのだ。


「…いや、あんねん。名前は…」


病人の様に顔を蒼白にした楓がぽそりと呟いた。

「あ?どこに?」

永倉の問いに楓はゆるゆると力なく右手を上げる。


彼女が指差した先を永倉の目が追っていく。