夜目が利くとは言っても、流石に灯り一つない夜道を歩くのは困難だ。
きっと貸してくれと言えば、彼女は快く提灯を貸してくれただろう。しかし、私は頭を下げてから一度も彼女と目を合わせることができなかった。


――私は本音を言ってくれた相手にも嘘をついた。


気持ちに答えられないと言った後、彼女は目いっぱいに涙を溜めながら笑顔を見せてくれた。
そのあまりに美しく、無垢な笑みに息を呑んだ。


そんな彼女はたった一言、

“夢のような日々をありがとうございました”

そう言って大粒の涙を流していた。


「私は…どこまで卑怯な人間なんだ」

笑いたくないのに自嘲に口が歪む。

涙で目を腫らす彼女を見ても私は本心を口にしなかった。


お琴さん、貴女が言う私の色はきっと間違いではありません。


「万華鏡じゃなくてよかった…」


もし私が本当の万華鏡で、私を変化させた張本人が今の私の色を見たら、きっと飴色の瞳を細め、鼻で笑うでしょう。

幸い私は人間なので、本心を隠して生きていけます。

私は貴女のように強くありません。
だから、私は自分の気持ちに蓋をし続けます。


暗闇の中に柔らかな光が一筋。

新撰組屯所。その門を潜れば私はいつもの沖田総司に戻る。