――ジャッジャッジャッ
「沖田先生!」
子どもたちに囲まれた沖田に向かってくる声。
忙しなく砂利を踏む音を聞く限り、かなり急いでいるようだ。
「あ!山野さん。そんなに急いでどうしたんですか?」
沖田目がけて走っているのは、沖田の直属の部下にあたる一番隊隊士・山野八十八であった。
呑気に手を振る沖田に苦笑しつつ、山野は律儀に手を振り返す。
「はっ…はぁ。た…“たいへん”です」
漸く沖田の前まで来た山野は、膝に手をついて肩でどうにか息をしている状態だ。
「ん?大変…でしょうね」
沖田は今にも前のめりに倒れてしまいそうな山野を見て、息をするのが大変なんだと理解していた。
「ちっ…違います!まあ、ある意味大変なんですけど…。隊編成されたんです!!今屯所の大広間に張り出されています。とにかく来て下さい!」
ひゅうっと喉に空気が通る音を鳴らしながら懸命に用件を伝える山野。彼が言っている“隊編”とは、新撰組の一から十までの隊内を新しく構成し直すという意味だった。
「へぇ。そうなんですか。で、私は一番隊の組長でしたか?」
「…へ?ああ、はい。組長は皆さん今までと変わりません」
「そうですか!それはよかった!知らせてくれてありがとうございます。でも、それだけわかればもう充分です」
「えー…」
屯所内が一大事だと騒ぎ回っている話題だったが、沖田の反応は薄かった。
山野の中の沖田は、もっと喜んだり驚いたりする予定であった。
「では、私はこれから鬼ごっこをしなくてはいけないので」
山野が呆気にとられている内に、子供たちと遊ぶためにその場を去ろうとする沖田。そんな沖田の姿を見て、山野は反射的に彼の腕をぐっと引っ張った。
「いいから来て下さい!大変なんです!」
「え!?だからわかりま…うわっ!!」
山野によって強引に連れ去られる沖田に向け、子どもたちは混乱しながらも手を振っていた。

