「お、そうだ!琴、頼みがあるんや」

急に声を張った父親に、ビクリと体を震わせ挙動不審になる琴。

「な…なな何でしょう?!」

驚きのあまり口がうまく回らなくなってしまった琴に笑いそうになりながら男は言った。

「今日は忙しくなりそうなんや。お前に手伝って欲しい事がぎょうさんある。やってくれるな?」

男は年季の入った目尻の皺を更に深めて人の善さそうな笑顔で琴を見つめた。

「へ…!?わ…私が父上のてて…手伝い!!え…ええんですか?!」

「ええも何もわしがお前に頼んどるんや」

「た…確かに。すみません」

ほんの些細な失敗でも俯いてしまう琴に男は優しく話しかけた。

「頼んだで。お前はわしの自慢の娘兼看板娘なんやからな!」

琴の丸まった背を伸ばすように、男は軽く叩いた。



これが九月某日、『中谷診療所』の朝の出来事である。