「どうすると言われても…何とも言えませんね」

はっきりとしない男の回答に血気盛んな青年は満足しなかった。
片膝を立て、歌舞伎役者のように青年は見事な円を描いている目をギョロつかせる。

「そんな事ではいけません!先生は誰よりも聡明で誰よりも指導力があります!!新撰組の使者が訪れた暁には、必ず申し出を受けるべきです!今の日本の状況を打開できるのは伊東先生だけです!!」

「いや…加納君、話が飛躍しすぎてついていけなくなってきたんだが…」


拳を激しく振り乱し、猛暑に負けない熱さで熱弁を続ける青年・加納に伊東は頭を抱える。


(日本の状況を打開か…)


一度は加納に大袈裟過ぎると言った伊東だったが、若き青年の主張は心に響くものがあった。

(もし新撰組の使者が来たら僕はどうするんだろう?)

自分でも気付かぬ内に伊東は、あり得ないと思っていた未来を考え始めていた。