――江戸・深川佐賀町



「今日はここまでにしましょうか」


「はい!大蔵先生、今日もご指導いただきありがとうございました!!」


夏の容赦ない熱気の中、剣道の面を被った男が二人。
三十畳は裕に越える広さの道場に姿勢よく正座していた。

「稽古の後はしっかりと水を飲んでくださいね。さもないと熱病になってしまいますから」

お互い礼をして、一人の男が玉の汗を滴らせながら面を外す。

「あはは!先生は本当に何でも知ってらっしゃるんですね!なんだか剣術の師範に留まっているのは勿体ない気がします…」


男が完全に面を外したのを見届けてから、目下と思われる青年も面を取った。
綺麗に剃り上げられた頭頂部からは湯気が立っている。

「はは、勿体ないと言われても困ってしまうな」

青年の真っすぐで熱い視線から逃げるように男は遠くを見る。