「楓君。それは君が人を思いやってがむしゃらに行動しているからだと思うよ」

楓のうまくまとまらない想いが、山南の柔和な声に乗せた、気恥ずかしくなってしまいそうな言葉にまとめられた。

山南のように優しい言葉を持たない土方は、楓が顔を赤らめて全力で否定すると予想し、気付かれないように横目で表情を伺った。しかし、楓は意外にも顔色一つ変えていなかった。
それどころか、


「そうなんか?」

と聞き返し同意を求めたのだ。




(…ああ、こいつは)

最初は、柄にもない行動に出られ驚かされた土方だったが、次第に理由が解ってきた。


――赤城楓が育つ過程には誰もいなかった


それが土方の出した結論だった。
幼少から誰にも頼れず誰とも関わらない、正に“孤独”という環境の中で生きてきた楓には新撰組で感じる全てが新鮮なのだ。
まるで赤子のように見たもの感じたものを吸収しているのではないか?


(…いや、考えるだけ無駄だな)

そこまで推測を立てた土方は突然、考えるのをやめてしまった。

そう、どんなに考えようと、推測は真実ではない。そして、過去を聞いても返答が望めるような相手でもないのだ。



「ま、俺には関係ねぇな」



そう言いながらも、楓に向けられた土方の瞳には、いつか全てを話してくれるのではないかという希望の色が滲んでいた。