「無礼者!!」

「ここを会津藩本陣と承知の上での振る舞いか!?」


穏やかな時間が流れる金戒光明寺の庭が、突如騒がしくなる。


「何だ?」


松平容保は耳を声に集中させた。
どうやら、塀を越えた更に向こう側、揉み合うような声は表門から聞こえてくるようだ。


「容保様、ここは私共にお任せください。殿は奥の間へ」

危険を察知した神保は周りに細心の注意を払いながら若き当主を急かす。


「…うん。頼んだぞ」

松平公も、この指示には素直に従う。神保を気に掛けつつ、長い渡り廊下を進んで行く。


「待ってくれ!!俺たちは会津藩より京都守護の命を受けた新撰組だ!松平公と面会させて欲しい!」


「…新撰組?」

逼迫した男の声に乗った聞きなれた名に、松平公の歩みが止まる。

「殿、お早く奥の間へ!」

松平公の異変に気付き、神保は少し離れた場所から少し声を荒げる。

「神保!今の声の主は確かに新撰組の者だと言ったな?」

「は?はぁ…私にはそう聞こえましたが」

その言葉を聞くと、松平公の口は遠くからでもわかるほど綺麗な弧を描いていた。
神保の頭に嫌な予感が走る。

「いけませぬ!!奴の言っていることは偽りかもしれません!」

松平公が口を開く前に、神保は先手を打つ。

「余の言いたい事がよくわかったな!?何か急用かもしれぬぞ?取り敢えず謁見の間に通してみてはどうだ?」

「成りませぬ!」

自分の立場をいまいち理解できていないように見える松平公の発言を、神保は容赦なく斬る。