――平成十年(一九九八年)


「先生!!遂に届きましたよ!」


バンッとドアの開く音に続き、息を切らせた学生が満面の笑顔で叫んだ。


「おぉ!遂に来たか!!」

ドアの先にいたのは、白髪混じりの初老の男。
国立大学で日本史の准教授をしている宮塚秀俊(みやつかひでとし)である。

彼は今日、三十年間の研究生活の中で未だかつて感じたことのない昂揚感に満ち溢れていた。

足速にドアを開けた青年の元へ行き、手に持たれた三十センチ四方の小さな段ボールを受け取る。


「これでまた一つ歴史の真実を知ることができるぞ!」

宮塚は興奮で震える声を抑え、厳重に封をされた段ボールを丁寧に開けていく。

段ボールの中には透明のプラスチックケース。更にその中にはビニール袋と衝撃吸収用の発泡スチロールが詰められていた。

全てを乱暴に取り払ってしまいたい衝動を何とか抑え、宮塚は一つずつ丁寧に取り払っていく。


「「!!」」


最後のビニールを取り去った宮塚と青年は現れたモノに圧倒され、言葉を失った。



古い紙の匂いと共に姿を現したのは、長い年月のせいで茶ばんでしまった簡易な三冊の冊子。
どれも表紙の文字は擦れてしまってはいるが、解読は可能だった。


「これが…新撰組の隊士が書いた記録、『浪士文久報国記事』ですか」


青年は目を輝かせて冊子をまじまじと見る。


「ああそうだ。明治初期に杉村義衛こと、永倉新八が記した新撰組の記録だ」



白い手袋にマスクをつけた宮塚は、慎重に一ページ目を開いた。