「これなんてどうだ?」




「………これって」


差し出された刀を見た瞬間、沖田の顔色が一変する。


「なんや?」



刀の知識など一切持たない楓にとってその刀はただの細身の刀でしかない。



「この反り方、この刀身の細さ…」




沖田は息を荒げて漆黒の鞘から慎重に刀身を抜き去る。




「菊一文字則宗…ですか?」




思わず沖田の刀を持つ手が震える。




菊一文字則宗。


後鳥羽上皇の時代、諸国の名刀工を招いて刀を鍛えさせ、焼刃をしたと伝える。

則宗は御番鍛冶を務めた事から、後鳥羽上皇が定めた皇位の紋である16弁の菊紋を銘に入れることを許された。いわば名刀工中の名刀工なのだ。




「いや、則宗ではなさそうだ。ほれ、見てみ」



初老の鍛冶屋は目釘を取り、柄をはずすと沖田に茎(なかご)を見せた。



「あ…。確かに、菊と一の銘は入ってますけど則宗とはないですね」


「その菊一文字自体は本物と思うんだがのー。どうする?持ってくか?」



「…おいくらですか?」



「三両でいいよ」



「「…は?」」




「気が変わらんうちに買わんとどんどん高くなるよー」



「い…いやいやいやいや買います買います!」



沖田は急いで着物の袖から巾着を出す。


この時代、業物でなくても刀を買おうと思ったら十両は下らない。


三両なんという価格は普通の刀でも破格なのだ。