――慶応元年(一八六五年)四月




年号が慶応に改元されようが、幕府の総大将が変わろうが相変わらず尊皇派と幕府派の緊迫状態は変わらなかった。



そんな中、嵐を起こす気配を背負った男が今日の町に舞い戻ってきた。





「龍馬――――っ!!」




桜の蕾の下を無様な韋駄天走りで走り抜ける男の顔は浅黒く焼けていた。



「戻ったぜよ―!」



低めの下駄で跳び跳ねて男はとある宿場に入っていった。




――バンッ!



「ぬおっ!?」



耳をつんざく襖の音に宿場の一室にいた男は手に持っていた饅頭をぽろりと畳に落としてしまった。





「し…慎太郎やないかっ!!」




「おー!無事に戻ってこれたぜよー!」




二人は久々の再開に熱い抱擁を交わす。


男同士がっしりと騒がしく抱き合うのは長州征伐の仲介で長州へ行っていた中岡慎太郎と、京都で薩摩藩、長州藩と密な関係を育んでいた坂本龍馬だった。