「山南さんが、生前に身請けしてくれてたんどす」



「山南さんが…」




「ええ。切腹の一日前に店に来て突然うちに三十両渡してきて、これで好きに遊びなさいって言いはったんです。
今考えると、こういう風に使いなさい言うことやったんや思て…」




明里の漆黒の瞳から涙が止めどなくこぼれ落ちる。




「…明里さん。山南さんは今、下京区綾小路通大宮西の四条大宮の光縁寺に眠ってます。行ってあげてください」



楓は優しく流れ続ける明里の涙を袖で止まるまで拭い続けてやった。





「…お…おおきに…楓はん…おおきに……」




明里は楓の冷えた手を力一杯握り締めた。







それから明里は楓の前に二度と姿を現すことはなかった。





風の噂では、明里は島原時代の源氏名を捨て、お里という名で静かな田舎で暮らしたという。