「そんなに総司の体が心配なら山崎でもくっつけといたらええやろ!あいつなら剣の腕もあるし医学の知識も多少ある」

苛立ちを隠さない楓の声が部屋の空気を重くする。

「もちろん、山崎君にも監察方として協力はしてもらう。だがな、そういう問題じゃねぇんだよ」

感情を抑えるように、土方は固く目を閉じて舌打ちをする。

「総司は君のそばにいる時が一番総司らしいからですよ」


「…は?」

山南の理解不能な言葉に楓は怒りも忘れて絶句した。一瞬、三人の時が止まる。


「お前が来てから、あいつは怒る事が多くなった。何故だか解るか?」

「うちが気に入らんからやろ」

「ちげーよ馬鹿。我慢しなくなったからだ」

言葉の意味ではなく、沖田に対して我慢という単語が使われた事に楓は驚く。
顔の筋肉が弛緩し、呆けている楓を土方は鼻で笑った。

「総司は今は新撰組という組織の中で、昔は試衛館という剣術道場で近藤さんを立てようと自分を殺してきた。それがお前に会ってからは少しずつ沖田総司本来の姿を取り戻してきてる」


「貴女になら、彼は弱いところを見せられるんだ。総司を支えてやってくれないかい?」


お願いします。と、総長が一隊士に過ぎない楓に深々と頭を下げるという珍事。

「総長が平隊士に簡単に頭下げるもんやない。気分悪いから顔上げてくれへん?」

自分ごときに畳に額をつける山南の姿に居たたまれなくなった楓は目を伏せる。

「…あんたらがうちに何を求めてるのかよう解らん。やけど、今後一番隊の隊士として働く事はできる」


ため息混じりにそれだけ言うと、楓はすっと立ち上がり、静かに副長室を出ていった。