――元治二年(一八六五年)二月
この日の京はどんよりとした雲に覆われ、雪がちらついていた。
流石の大通りもあまりの寒さに人通りも少なく、皆家の囲炉裏で暖をとっていた。しかし、そんな底冷えする町の中で一軒だけ慌ただしくしている家があった。
「そっちにもいないか!?」
「そっちは!?」
「その辺の通りはどうだった?」
様々な声が飛び交うのは新撰組屯所となっている八木邸。
局長始め、全ての隊士が一人の人物を探していた。きっかけは一枚の紙切れだった。
朝方、総長付きの小姓が総長室に入ると、総長の机に一枚の半紙が置いてあったのだ。
“江戸へ行きます”
その手紙が発端となり屯所は一瞬にして大騒ぎになった。
もし本当に誰にも無断で江戸へ行ったのだとしたら脱走と同じ。
つまり局中法度違反で切腹は免れない。山南がそんな冗談を言う人間ではないことくらい誰もが知っていた。
絶望感が皆の頭を過る。
「…沖田」
隊士たちが意気消沈する中、いつもと変わらない声色で土方が低く名を呼んだ。
「はい」
沖田は呼ばれてすぐに土方のもとに駆け寄る。
「山南総長を捕まえろ。そこの馬を使え」
「はい」
二人の会話は淡々としていた。
むしろ淡々としすぎていて感情が読めない。
一部の人間以外には。

