「監察方の負担が重すぎる」


楓と三木がじゃれ合っている頃、八木邸の局長室では四人の重鎮が膝を付き合わせて真剣に話をしていた。


「しかし屯所を移転するといってもこんな百人単位の大所帯、一体どこが受け入れてくれるというのですか?」


軽蔑するような目で向かいに座る土方に反論するのは参謀の伊東。


「そりゃこんな農家や武家の屋敷じゃ到底無理だろうよ」


伊東に反論されることを喜んでいるように口許だけで笑い土方は答える。


「じゃあ一体どこに?」


頭のきれるな伊東にわからないことが近藤にわかるわけがない。焦れったくなり土方に直接問いた。




「西本願寺の北集会所だ」


「「「西本願寺!?」」」


近藤、伊東、山南は考えてもいなかった場所に揃って驚きの声を上げた。


「土方君!いくらなんでもそれは無理だ!西本願寺は勤王の思想です。しかも神聖なお寺で新撰組の局中法度を施行するなんて…」


山南は険しい顔でそれ以降の言葉を濁す。
いつもは土方の意見を取り入れることが多い近藤も今度ばかりは眉間にシワを深く寄せ考え込んでいた。


「西本願寺はかねてより長州藩に好意的で池田屋事件や禁門の変の後にも長州藩関係者を匿ったと言われてる。
新撰組がここに屯所を置くことで今後奴等の拠点になることを防げるという利点もある。一石二鳥じゃねぇか?」


土方は目を丸くする三人をぐるりと見回し鼻で笑った。


「土方君、しかし屯所にさせてください。はいそうですかとはいかない。もう少し探してみても…」



「いや、西本願寺でいく。あそこなら京の中心部に近いという利点もある。
いいよな?近藤さん、伊東さん」


山南の意見も虚しく土方は近藤と伊東に同意を求めた。



「…うむ。検討してみよう」


「私は局長が賛成というのなら」



「…」



土方の意見はあっさりと採用された。

山南は解散する三人の中で一人だけ立ち上がれずにいた。