「………楓はいいよ」



「あ?」



聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でやっと発せられた藤堂の声に楓は耳を疑った。



「楓は何もしなくてもみんなに頼られてみんなに慕われて!!
必要とされて!」


「平助?…何言って「俺なんて…俺なんて……」



楓の制止も聞き入れずに藤堂は暴走気味に声を荒げて続ける。



「誰にも頼ってもらえない…。
知ってるんだ!芹沢さんは土方さんや総司が暗殺したんだろ!?でも俺は呼ばれなかった!剣術も総司やぱっつぁんより弱いし…。
結局俺はいつだって必要とされないんだ!!」



「…」



酸欠気味になった藤堂の顔が吐く息に包まれる。そんな藤堂のどことなく小さくなったような姿を見た楓は抑揚のない声でこう質問した。




「失礼と思わんか?」




「………へ?」




「池田屋で負ったその額の傷。あの時放っておけばあんたは間違いなく死んでいた。
じゃあなんで今あんたは生きている?
甘ったれるなこのクソ坊っちゃんが。ここは寺子屋じゃない。お友達を作りたければ別のところに行き」



静かではあるがどこか怒りを含んだ楓の迫力ある物言いに藤堂の腰は勝手に引けてしまった。
さっきの勢いは完全に削がれた様子の藤堂を見兼ねた楓は、すっと息を吸って踵を返した。



「伊東なら自分を必要としてくれると思ったか?」




「?!!」


「まあ、真意は伊東以外誰にもわからん。だがな、いくらうちにくっついてても隊を裏切るような行為はせんで」



楓には伊東の企みもここ数日間の藤堂の奇妙な行動も全て見通していたのだ。

どこでどうばれたのか全くわからない藤堂にとって楓のこの発言は恐怖以外の何物でもなかった。


ただ一つ確実に言えるのは、これで唯一自分を必要としてくれていた伊東が自分に落胆する姿を見なくてはならないということだった。