暫く黙っていた。
助手席に瀬沼桃が座っていることが、これ程までに安心できるとは、中野も思ってもいないことだった。
ああそうか、竹永先生に誘われた日、車で一度帰宅する際に感じたあの違和感は、瀬沼桃がいないから起こったのか。
柄にもなく、呑気にロマンチックなことを考えていた。
「……先生。」
「ん?」
小さく瀬沼桃が呼ぶので、中野はちらりと目線を左隣りへと移した。
何やら瀬沼桃は、鞄の中を漁っている。
こうして落ち着いてよく見ると、瀬沼桃はいつもの制服姿ではなく、普段着であることが解った。
制服姿でないことが、自身が教師であることを忘れさせる。酷く新鮮な気がして、中野はソワソワとした。
「先生、これ。」
「これっ、て……。」
瀬沼桃がようやく鞄の中から取り出し、中野に手渡したのは、可愛らしく包装された小さな箱だった。
ふと、瀬沼桃のクラスの女生徒のことを思い出す。
そういえば今日は、バレンタインデーだったっけ。
「これを作る為に、三戸さんと約束していたんです。自転車で買い物に行ったのも、材料を買うためで……。」

