中野は気が動転していた。それはもう、尋常ではない程にガクガクと膝が笑う。
どうして荷物までなくなったんだ……。
それに気が付かなかった自身に、腹が立った。
もう課題が面倒になって、帰っただけだろう、そんな根拠のない仮想を頭は紡ぐ。
中野は、瀬沼桃が明日また何ともない顔でフラリと現れるのを待つことにした。
先程の竹永の電話は、今夜一杯飲もうという誘いだった。これは車で行くわけにはいかないな、と思い、早めに切り上げてコンピュータの電源を落とした。
それから、理科準備室の鍵を施錠した。
「あら中野先生。今日は早いんですね。」
そんな風に声を掛けてきたのは、割りと年が近い女性の教師だった。
音楽科の担当である。
「ああ、高校時代の先生と会う約束があるんですよ。」
「そうなんですか。それじゃあ、また。」
その女性教員に頭を下げられたので、中野もそれに倣って頭を下げた。
それから、一度家に帰るために駐車場へと急いだ。

