未提出課題

 

その翌日からも、瀬沼桃は課題をするために理科準備室へ通った。
中野が退室すると、相変わらず瀬沼桃は姿を消していたが、それでも放送が鳴る前には戻って来ていた。だから、中野は安心していたのだ。
 

その日の放課後も、瀬沼桃は理科準備室で課題に打ち込んでいた。
その一方で、中野はそろそろ行われる学年末試験の為の試験問題を、制作していたが、中野のポケットに入れていた携帯電話が、小さく振動した。
 

 
「すまん、電話だ。」
 

「……。」
 

 
課題に打ち込む瀬沼桃に断りを入れ、中野は携帯電話を取り出した。
そこには、「竹永一彦」という文字が記されている。
 

 
「もしもし。」
 

「やあ、トシ。今大丈夫かい、仕事中だったかな。」
 

「いいえ、平気ですよ。もう疾うに放課ですし……。先生こそどうかされました?」
 

 
何日かぶりの竹永の声に、中野はやはり気分が高ぶる。他愛ないおしゃべりをしながら、中野はコーヒーを注ぐために席を立った。
 

そしてまた、電話を切った頃にようやく、瀬沼桃の姿が消えたことに気付いたのだった。
今までと違うのは、中野が室内にいるというのに、瀬沼桃は部屋を抜け出したこと。
 

それから、ペンケースも鞄も、先程まではそこにあった瀬沼桃の荷物までもが、なくなっていること。