車内では、瀬沼桃がよく話した。いつもは無口なので、それこそ中野の方が話題を出してきたが、何が嬉しいのか、彼女はよく話した。
両親が共働きで食事は自炊をしていることや、兄弟がいないので実は寂しいこと、ぽつりぽつりと話していた。
自分のことをあまり話さなかった瀬沼桃なので、中野は酷く気分が良かった。
「よし、着いたぞー。」
「ありがとうございました。」
よいしょ、とまた可愛らしい声で助手席を降りた瀬沼桃は、擦り剥いたらしい膝を庇いながら、その足を少し引き摺るように自転車に手を伸ばした。
慌てて中野が後部座席に回ると、今度はその伸びた手が固まって、中野が自転車を降ろすのもされるがままとなって見ていた。
「ほら。危ないからお前は家に入れ。」
「あ、でも、」
「自転車はちゃんと鍵を掛けておいたぞ。」
「ありがとうございます……。」
瀬沼桃は、持っていた袋をガサガサと言わせながら、渋々と家の鍵を出した。
「それじゃあ、また明日な。明日からまた課題だぞ。」
「はい。」
瀬沼桃はおかしそうに笑った。

