「二十二秒五二…、まあまあね」



「それって速いんですか」



「素晴らしいタイムよ」



「そうですか」





俺は制服を着た状態で校庭に倒れた。




砂が制服に付くことも気にせずに身体を落ち着かせるためにうつ伏せになった。





「鍛えれば、さらにタイムが速くなるわよ」



「一つ聞いてもいいですか」



「何…」



「先生はどうして陸上部の顧問をしているんですか」







先生は空を見上げた。




そして俺の方を見た。




「人が成長する姿が見たいからだと思うの。
私は体育の教師でもないし、専門家でもない。
正直、誰も陸上部の顧問をする人がいなかったからやっているだけなのかもしれない。
でも何年も顧問をすることで生徒から学ぶことが沢山あるの、それに感動も与えてくれる」








「俺も先生が求めるものの一部になれと言うんですか」







「そう聞こえるかもしれない。
でも私は生徒にきっかけを与えるだけで、やるのは生徒。
生徒が主役であって、私は傍観者」








「俺はなりませんよ。主役には…」







「じゃあ、何になりたいの」






「俺は…」








「一人一人にはそれぞれ人生という道があり、それぞれにストーリーがあり、その価値は人それぞれ。
そのストーリーの中ではその人が主役。歴史の人達はそのストーリーの参考者なの」








俺は立ち上がり、先生を見た。




「先生、俺は主役にはなりたくない。
俺は観察者だ」