「なんでも、ないから・・・大丈夫だから・・・・・。」


 あたしは、そう言った。


 さっきとは違い今の「何でもない」は本心からきているものだった。


 なぜなら、川瀬怜がとても優しい表情で、あたしを慰めるかのような目で、そっと話しかけてくれるだけで、あたしの心から辛い気持ちがスゥーッっと消えてったからだ。


「ホントに大丈夫なのか???」


 ホラ、今も優しい表情であたしを心配してくれている。


「うん、大丈夫だよ。」


 あたしがそう言うと


「じゃぁ   行くか・・・。」


 そう言って立ち上がる。


-ガチャ


「「失礼しました。」」







 帰り際にあたしは聞こえるか聞こえないかくらいの声で


「迷惑かけて・・・ごめんね・・・。」


 と呟いた。


 川瀬怜は無表情で、何も返してくれない。


 やはり、聞こえなかったのだろう。そう思い始めたとき


「迷惑じゃねーよ・・・・・。」


 と川瀬怜が呟いた。


 あたしの小さな言葉をしっかり聞き逃さないでいてくれた川瀬怜に対して今まで抱いてきたあたしの中での“Sですぐ小馬鹿にした笑いをする男”というイメージから少し変わり



“川瀬怜はSだが時々優しい男”というイメージに変わった。