ラディウスが帝国であったことを、アルミナの存在をぼかしつつ話すと、シオンは信憑性を疑った。
すると、ラディウスはリリスの力を操り、水晶の洞窟であったことの一部をシオンの夢に見せた。
リリスの預言獣としての能力の一つ、夢見の預言だ。
そして、ラディウスは自分が預言獣だとシオンに言った。
シオンは驚き、そしてそれを信じた、ようにクルーエルは感じた。

「じゃあ、今度は僕が話す番ですね」


「半年ほど、前のことでしょうか。ディラン様が突然王都中の紅い目をした人を集めはじめました」

「紅い目?」

クルーエルはちら、とラディウスを見る。
ラディウスは表情を変えず、無言でシオンに続きを求める。

「なんでも『なにかを忘れているようで、ひどくもどかしい。紅い目が脳裏にちらついて、離れない』とのことで」

シオンはラディウスを挑戦的に見つめた。
しかし、ラディウスはそれを無視して先を促す。

「それで?」

「紅い目の人は残らず、セレスティア城に集められたと思います。そして、自らと歳の近い者だけを手元に残しているようです」

シオンはいったんそこで区切り、内容を変えた。

「先代国王のことですが、これも、半年前、突然倒れ、全ての記憶を失い、徐々に衰弱していきました。最後には、自分の感情、意思さえ忘れて亡くなるのでは、と言われたそうです。そして――」

「今朝、王は死んだ」

「そうです」

「いったい、なにがおきてるんだろう……」

ディランはわかる。術者が、わざとそれだけを覚えさせたのか、ディランの記憶に強く焼きついていたのかはわからない。
でも、記憶もなにもかも忘れて死ぬなんて、そんなの、呪いだ。
クルーエルはなんだか喉元を苦しく感じて、ラディウスの袖を握った。
不安とか、嫌な予感ばかりが、ぐるぐると自分の周りを飛び交う。