「帝国に行くにあたって、なにか気をつけることはある?」

「ふむ」

アルミナは考え込むように顎に手をあて、しばらく考えこんだ。

「まず、絶対にルナの正体をばらさないことじゃな」

「そうだ……ラディウスはなんで王国から離れて一人で旅をしていたの?」

「王国には、伝説がある」

ラディウスは壁にもたれかかるようにして腕を組んだ。

「曰く、預言獣リリスを宿すものは世界を滅ぼすと」

「表向きは神官として辺境の神殿に勤めていることになっておるがの。事実上の追放じゃ」

クルーエルは思わずラディウスを見てしまった。
ラディウスは淡々とした表情をしていたが、確かに出会った当時は、何もかも疑うような、そんな感じがしていたような気がする。

「いるのがばれたら、ただじゃ済まんの。おそらく公開処刑じゃろうて」

「こっ……!?」

クルーエルは絶句したが、ラディウスはそうだろうな、と呟いた。

「2つ目に。帝国から来たことを言ってはならない。当然じゃの。戦争中じゃから。3つ目に、ディランに闇の幻獣王を召喚させようと思わせるような行動はしないこと。大事じゃぞ」

「アルミナ様!」

そのとき、身軽な格好をした男がどこからともなく表れた。
クルーエルは驚いて固まる。

「何があった」

「王国の王が、昨晩亡くなられました。なんでも、急な心臓発作とかで」

「……なんだと」

ラディウスの目が驚きに開かれる。

「急ぐのじゃ!ディランはおそらく3日以内に闇の幻獣王を召喚させるはずじゃ」

アルミナが魔法を発動させる。
クルーエルはラディウスが「公開処刑は免れたかな」と呟くのを聞いて力が抜けそうになった。