クルーエルはショックを受けていた。
ラディウスのことだ。
前から綺麗な人だな、と思っていたが、その銀灰色の髪が伸びているのを見たとき、本当にショックを受けた。
――この世の女性は皆ラディウスに敵わないんじゃ……。
あまりにも美しい。
銀の髪は神秘的で、夕焼け色の瞳は野生的な煌きがあって、顔立ちははっきりして冷たい雰囲気があるが、笑うと誰よりも柔らかい優しさに変わる。
つまり、もとから男性にも女性にも見えなかったが、今は完璧に女性と化している。
声を聞かないかぎりラディウスが男だと気づく人はいないのではないか……。
そもそも、声を聞いても男性と言い切れるかどうか……。
そこでクルーエルははっとした。
――また。またラディウスのことばっかり考えてる!明日は王都に行くのに!
クルーエルは顔を赤く染めて誰もいないのに恥らうように枕に顔を押し当てた。
この頃変だとは思っていた。
ノインの魂はリリスが還ったことで完全に沈黙したから、この感情はクルーエルだけの物なのだ。
恋とは違う、と思う。
じゃあなんだろうと思っても答えが見えない。
それでも、一つだけ言えることがある。

――ラディウスに。知られてはならない……この気持ち。

まだ。
まだ知られてはいけないのだ。
言いたくても、もどかしくても、それでも……離れられない居場所を見つけてしまってはいけないのだ。
クルーエルという名前をノインに与えられてから、それは決まっていたことだから。
幻獣王に会って、私が存在することを許されたそのときまで、離れられない居場所を作ってしまってはいけない。
この苦しさともどかしさを早くどうにかするために、まずやらなきゃいけないことがある。

「王都、闇の幻獣王、ラディウスのお兄さん」

クルーエルは自分を抱きしめるようにして震えた。

「ごめんなさい。私のために壊れてもらいます」