妖精なアイツ【完全版】

夕方5時。

もう少ししたら出なきゃいけないのに、支度が終わった私は携帯電話とにらめっこ。


画面には、のり姉の番号が出ていた。
通話ボタンを押そうと、躊躇って、それでもまだ押そうとして…。


「…あかん!」


何があかんのか、自分でも分からん。


のり姉が今、寂しい思いをしているんじゃないだろうかという気持ちと、何があったか知りたい気持ちがあったが、私が踏み込んでいい話なのだろうかと、悩んでいた。


その間にも、約束の時間は刻々と迫っていた。



「じゃ、行ってきます。」


玄関で靴を履きながら、兄貴に言う。


「おう、気つけろよ。今日人多いやろうし。」


「行ってらっしゃい、美希ちゃん。」


既に来ていた染五郎さんは、笑顔でそう言った。


…でも、いつもより笑顔が寂しそう。


…のり姉と、また、元通りに戻れるといいな。


私はそう思いつつ、二人に手を振って家を出た。


二人が本当に仲良くなる事を願っている私は、染五郎さんへの恋心を消え去っている気がした。


でも、妖精の事を考えると、また胸が痛む。


…妖精には、この事を知らせない方がいいのかもしれない。