「ほんま良かったわあ!光太くんの舞台!」


ドアに手をかけた時、中から桜井先生の声がした。


僕の舞台が良かった…
嬉しい…けど、誰と―…?


「光太のヤツ、家でもずっと練習してたからなあ」


兄貴―――…?


なんで…前もここで兄貴は先生と会ってた…
ただの偶然?それとも、ふたりは―…


「規香、お前光太の事よく見てたなあ」


兄貴が嬉しそうに先生に話す。敬語では無い。


「だって、染五郎の弟やもん。彼氏の弟を応援すんのが当たり前やんか」


彼氏―――…
兄貴が…桜井先生の…


その瞬間、頭が真っ白になった。


僕の気持ちは、その瞬間に伝わる事なく…打ち砕かれた気がした。



「おー!妖精じゃん!」


誰かが僕に声をかけてきた。
相手は同じクラスの松井夏男だった。


「お前すげえなあ!演技うめぇーじゃん!!この妖精っ!」


バシバシと背中を叩かれ、笑われた。


「ふっ…妖精?」


しらけた笑いをしながら横目で夏男を見る。


「おお!お前は妖精だ!」


この男の言っている事はよく分からない…。
だが、その時僕の中でプチンと音が鳴った。