「あ、美希ちゃん。こんにちは。」


「…こんにちは。」


「どうしたの?眉間にシワよせて。」


え?私、シワよってる?
私は慌ててオデコを隠すと、染五郎さんは笑った。


「光太のやつ、最近様子がおかしいんだよ。」


「いつもおかしいですけど。」


「…特に、だよ。美希ちゃんのせいだね。」


「わ、私ですか?」


一体、私が妖精に何をしたというのか。


…もしや、好きなのがバレて避けられてるんだったら、それは、気持ちには答えられないって事やんな。


「あいつ、多分…恋愛に関しては色々疎いんだよ。」


「はぁ…。って、え!?」


「ごめん、規香から聞いちゃった。」


の、のり姉―!!


「卒業式が終わったら、屋上行ってみて。きっと、いると思うから。」


「…は、はい。」


そう言って染五郎さんは去って行った。


いったい何が言いたかったのか。
卒業式に、屋上に、妖精がいるなら…行ってみようかな。


卒業式当日。兄貴と、染五郎さんの卒業式。


別に泣けるわけでもなく、ただボーッとしていた。


たまに立ったり座ったり、歌ったりするだけ。


ここでも、妖精の姿は無い。
卒業生代表で、染五郎さんが舞台に立つ。


兄貴と染五郎さんは、日本一頭のいい学校へ行くんだとか。
染五郎さんが一枚の紙きれを、淡々と読んでいく。


式が終わり、教室に戻る。
…やっぱり、妖精の姿は無い。


「美希―!」


廊下から呼ぶのは、兄貴。
胸に小さな造花を付けている。